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FAQ

赤痢アメーバ症 診療リファレンス

 赤痢アメーバに関する素朴な医学的疑問に、エビデンスとエクスペリエンスを交えて解説します。主な対象者は、医学部学生から一般臨床医を想定していますが、一般の方もご覧頂けます。ただし、専門的な用語が使用されている点をご了承ください。内容の更新は年1回を予定しております。

赤痢アメーバ症の疫学、感染経路

Q1赤痢アメーバ症の主な流行地はどこですか

 赤痢アメーバ症は世界中の多くの地域で発生していますが、国や地域によって感染経路やリスク因子が異なることに注意が必要です。特に衛生状態が不良な地域では『環境からの感染』、性交渉により感染拡大が起こっている地域では『感染者との性的接触による直接感染』に分けて考えると分かりやすいでしょう。いずれも、糞口感染が主要な感染経路であるという点が重要です。

2つの感染経路
衛生状態が悪いために、流行が起こっている地域:

 インド、東南アジア、アフリカ、ラテンアメリカ等の発展途上国で流行し、地域によっては血清抗赤痢アメーバ抗体の陽性率が50%を超える地域もあります [例:南アフリカの疫学研究PMID 36678367, [1]]。主な流行の原因は、上下水道設備の整備が不十分で、飲食物に感染者の糞便が混入するリスクがある地域です。これらの地域では、未加熱・未滅菌の水や食物の摂取川での遊泳などがリスクとなります。聖地巡礼と称して、ガンジス川で行水・水泳をした日本人が、帰国後にA型肝炎とアメーバ赤痢を同時期に発症した症例を経験したこともあります。いずれも、糞口感染による感染症です。アフリカや南米など発展途上国の多くでは、積極的な疫学調査が不足しているため、アメーバ赤痢の感染実態が明らかではありません。赤痢アメーバの宿主はヒトであるため、ある程度の人口が密集して居住し、上下水道の整備が不十分である地域への渡航は、特にリスクが高まります。A型肝炎のワクチン接種が推奨されている地域では、アメーバ赤痢の感染も流行していると考えると理解し易いかもしれません。

性感染症による流行が起こっている地域:

 日本、台湾、オーストラリア、韓国、スペインなどでは、性感染症によるアメーバ赤痢の流行が報告されています。特に男性同士のセックスが共通の感染リスクとされております [例:MSM に流行するアメーバ赤痢についての総説 PMID 22917103, [2]]。上記以外の先進国については感染実態が不明です。しかし、北米でも複数人での性交渉後の集団感染事例が報告 [PMID 19580413, [3]] されているだけでなく、近年のアメーバ赤痢による死亡リスクが男性間性的接触者 (MSM) に偏っているという分析結果も報告されている [PMID 22144440, [4]] ことから、性感染症によるアメーバ赤痢のリスクは、積極的な疫学研究が行われていない地域を含めて、全世界に及ぶ可能性が示唆されます。また、本邦でのアメーバ赤痢・届け出では、全体の報告数の 1-2割は女性が占めており、多くは性行為による感染が疑われています [IASR Vol. 37 p.241-242: 2016年12月号, https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2351-iasr/related-articles/related-articles-442/6942-442r01.html]。男性間性的接触以外にも、糞口感染のリスクとなり得る性行為は存在します。性風俗では、『肛門舐め』などのサービスを提供している店舗が多く、そのようなサービスを提供する性風俗嬢 (CSW) や、その顧客も感染リスクとなり得るようです。問診の際には、男性同性間の性的接触があるかどうかだけでなく、性風俗の利用や性行為の種類(セックスパートナーとの『肛門舐め』があるか)なども確認することで感染経路の特定も可能となります。台湾の研究によると、肛門性交 (アナルセックス) より肛門舐め (oral-anal sex) が、性感染によるアメーバ赤痢の重要なリスク因子であることが示唆されています [PMID 21212204 [5]]。糞口感染であることが再認識されますね。

Q2潜伏期間はどのくらいでしょうか
潜伏期間

 アメーバ赤痢は感染後亜急性に発症し、一般的な潜伏期間は病原体曝露から1~3週間と考えられています。それは、侵襲性アメーバ赤痢発症の急性期 (感染から数週) には、血清抗赤痢アメーバ抗体 (IgG抗体) 検査が偽陰性となり、回復期 (感染から1か月以上) に陽転化することから分かります。[急性期の血清抗体陽性率 70-80% であり、回復期の血清抗体陽性率 90% 以上と総説では説明されています, PMID 12700377 [6] などを参照]
 一方で、無症候性持続感染からの発症であれば、長期間の潜伏期間を経て侵襲性アメーバ赤痢を発症する場合が想定されます。無症候性シストキャリア・感染持続期間に関しての研究報告 [PMID 14532214, [7]] では、無症候性持続赤痢アメーバ感染が、平均1年前後持続することが分かっており、病原体への暴露・大腸への赤痢アメーバ感染の成立から、数年の潜伏期間を経て、侵襲性アメーバ赤痢を発症することもあり得ることが、推定されます。他方、無症候性持続感染の転帰は、8割は自然寛解する一方、2割は有症状の侵襲性アメーバ赤痢を発症することが複数のコホート研究の結果から推定されています。また、その転帰 (侵襲性アメーバ赤痢を発症するか、自然治癒するか) は感染後1年以内に決まることが多いようです [参考となるコホート研究, PMID 2891197 [8], PMID 10403338 [9], PMID 24338349 [10] など]。
 以上、潜伏期間 (病原体暴露から症状発現までの期間) は、通常、数週間程度と推定される一方、稀な事例ではありますが、長い場合には数年以上の無症候性持続感染を経て侵襲性アメーバ赤痢を発症することもあるようです [アメーバ性虫垂炎の研究 PMID 23665815 [11], 内視鏡検査後に腸炎を発症した無症候性持続感染例 PMID 31595870 [12]]。実臨床では、長期の潜伏期間も想定した上で問診を行うことが、重要ですね。

Q3赤痢アメーバ感染を疑った場合の問診項目を教えて下さい。

 赤痢アメーバ感染のリスクを正確に評価する上で、病原体に暴露する可能性のある行為を特定することは重要です。環境からの暴露と感染者からの直接暴露の2つの感染経路に分けて、問診を行い、感染経路の特定に努めて下さい。

汚染された環境からの感染

・流行地への渡航歴と現地での生活状況 (非加熱の水や食物の摂取歴、都市部や居住区に近い川での遊泳)

ヒト-ヒトの直接感染

・男性同性間とくに複数人でのセックス、
・性風俗の勤務・利用歴 (特に oral-anal sex のサービス)
・肛門を直接舐めあうような性嗜好
・知的障碍者施設の入居者 (糞便を触った手を洗い忘れるような環境での生活)

Q4国内での流行状況を教えて下さい。

 アメーバ赤痢は、感染症法5類感染症に指定され、侵襲性アメーバ赤痢を診断した場合、全例7日以内の届け出が義務付けられております。年間報告数は1,000件前後です。

国内疫学

 一方、赤痢アメーバ症は、感染者の約9割が無症候性持続感染を起こし、侵襲性アメーバ赤痢は感染者の約1割です。国内では無症候性感染に対する検査は行われておらず、無症候性感染は診断したとしても、届け出義務はありません。また、侵襲性アメーバ赤痢の診断に有用で、2017年までは高頻度に用いられてきた血清抗体検査が試薬製造中止となり、保険診療での検査の実施ができないことから、未診断症例が多く存在し、届け出ベースの疫学データは過小評価となっていることが指摘されています [感染症法に基づくアメーバ赤痢の届出状況, 国立感染症研究所ホームページ 2020年6月4日掲載記事, https://www.niid.go.jp/niid/ja/entamoeba-histolytica-m/entamoeba-histolytica-idwrs/9653-amebiasis-200604.html]。

感染疫学の乖離

 東京のような都市部の性感染症ハイリスク層では、水面下で感染拡大が起こっていることが強く示唆されています。流行状況をより正確に評価するため、東京都にあるHIV検査場の受検者を対象に行った血清陽性率の調査 [PMID 32102805, [13]] では、血清抗赤痢アメーバ抗体検査の陽性率 2.64% は、HIVスクリーニング陽性率 0.34% の7倍以上で、梅毒 RPR 抗体検査陽性率 2.11% より若干高いという結果でした。男女別でも同じような傾向が見られました。決して特別な病気ではなく、男性同性間性的接触者 (MSM) 、性風俗での勤務や利用歴があるなど、性感染症リスクの高い背景を有する患者では、積極的に疑うべき疾患であることが分かります。
 補足すると、国内で行ったハイリスク群を対象とした血清陽性率の調査では、HIV感染者 21.3% [PMID 24338349, [10]]、HIV陰性の男性同性間性的接触者 (MSM) 6.7% [PMID 35468146 [14]] でした。これらのデータは、発展途上国のスラム街居住者並みの高い数値です。
 正確なデータはないものの、日本国内では、性交渉などの濃厚な接触を除く、通常の生活を介して、赤痢アメーバが感染伝播しないと考えられています。国内の臨床現場において、赤痢アメーバ感染のリスクを正しく評価するためには、性嗜好や既往歴を詳細に聴取することが重要です。

症候論、どのような状況でアメーバ赤痢を疑うか?

Q5アメーバ性腸炎は、どのような臨床症状で見つかりますか

 アメーバ性腸炎の代表的な症状を以下に示します。
・便回数の増加 ・便性状の変化:下痢、血便、粘液便
・便の硬さ:水様便から半固形状
・腹部症状:腹痛、疝痛、腹部膨満感、鼓腸
・発熱、特に重症の急性劇症型壊死性アメーバ性大腸炎では高熱をきたすことが多い
・全身倦怠感、食思不振、体重減少
 教科書的には、渋り腹を伴う粘血便、激烈な水様下痢症で発症すると記載されているため、激烈な腸炎症状を呈する疾患であると認識されがちです。実際には、長引く下痢やおなかの不調など慢性経過の腹部症状が多く、その精査中に見つかる症例が多いということが、自験例の解析や国内の疫学データから示されています。
 激烈な腸炎症状を呈する症例は一定数存在しますが、慢性の腹部症状を精査する経過で診断される症例を多く経験します [自施設の症例をまとめた報告, PMID 21931875, [15]]。さらに、日本では内視鏡検査が広く行われるため、下部消化管内視鏡検査でアメーバ赤痢が見付かることが多いことも日本のアメーバ性腸炎の特徴として挙げられます [国内のアメーバ赤痢疫学に関するまとめ, IASR Vol. 37 p.241-242: 2016年12月号, https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2351-iasr/related-articles/related-articles-442/6942-442r01.html]。
 また、潰瘍性大腸炎との誤診が起こりやすい点に十分な注意が必要です。比較的若年の男性に好発し、慢性の下痢や血便を主訴とし、全結腸に潰瘍性病変を呈する点が類似しています。潰瘍性大腸炎の診断の際には、アメーバ性腸炎の除外が必ず必要であることを認識しておきましょう。HIV感染が判明して当院に紹介されてくる患者の中に、潰瘍性大腸炎の診断で免疫抑制剤投与が行われている症例が散見されます。実は潰瘍性大腸炎ではなく、アメーバ性大腸炎の診断で、メトロニダゾールにより完治するということをしばしば経験します。
 以下は余談ですが、アメーバ性腸炎が無症状から激烈な腸炎症状まで、多彩な臨床像を示す理由について説明します。当院での下部消化管内視鏡検査のデータを解析したところ、肛門側に近い病変 (直腸やS状結腸) では、強い腸管症状が認められるものの、口側に近い部位 (回盲部や上行結腸) に病変が限局すると、無症状または軽度の症状を呈することが示されています。一方、無症候性感染例と自覚症状の強い症例で、局所潰瘍性病変に肉眼的な違いは見られません。赤痢アメーバは大腸のどの部位にも感染を来たしますが、赤痢アメーバの局所深達度ではなく、病変部位の局在により自覚症状が大きく異なることが推定されます [無症候性持続感染者の病態を解析した臨床研究, PMID 32564059, [16]]。

Q6アメーバ性肝膿瘍は、どんな症状で見つかりますか

 アメーバ肝臓膿瘍における主な症状は以下の通りです。
・悪寒を伴う持続的な高熱
・腹痛(特に右上腹部痛)、右肩への放散痛
・胸膜痛、咳嗽
・嘔気、嘔吐
・全身倦怠感、食思不振、体重減少
・下痢(30%未満)
・重症の場合、黄疸が出現することがある(10%未満)
 アメーバ性肝膿瘍の特徴は、高熱が続いているにも関わらず、意外にケロッとしていて (全身状態が良く)、何度かインフルエンザやCOVID-19の検査が行われた後に画像検査で精査されて、診断までに時間が掛かる疾患であるという印象を持っています。古い研究では、症状発現から診断までに要する期間が、10日程度と報告されています [総説の表2. が、非常に参考になります, PMID 12660071, [17]]。
 膿瘍が、肝実質に留まっている時には発熱以外の症状はありません。肝表面に達すると腹痛や右肩への放散痛を来たすことがありますが、診断時には腹痛を伴わない場合も多いです。一方、右肝から上方進展し、横隔膜を刺激することによる症状である乾性咳嗽と後発する右胸水を呈することから呼吸器疾患が疑われる症例や、正中に近い部位から上方進展し、心外膜炎と心嚢液貯留を併発し、循環器疾患が疑われる症例など、非特異的な臨床症状から診断が遅れることを経験します。比較的長い経過の末に、ウォークインの外来で行われた画像検査 (造影CT, 腹部エコー等) により肝膿瘍が見付かる場合は、アメーバ性肝膿瘍である可能性が高いです。
 他方、同じく肝臓内に膿瘍を形成する細菌性肝膿瘍は、『胆管閉塞に伴う肝膿瘍』や『菌血症に伴う肝膿瘍』などの病態に起因するため、発熱の出現から、数時間もしくは数日以内に病状の急激な悪化を認め、診察時には、不安定なバイタルサインや意識障害を伴う場合もしばしばあります。アメーバ性と細菌性の肝膿瘍の鑑別には穿刺が必要ですが、臨床経過からある程度の推定が可能です。

Q7下痢や血便のなどの消化器症状が全くない状況でも、アメーバ性肝膿瘍が診断されることはあるのでしょうか

 下痢や血便などの消化器症状が全くみられない状況でも、アメーバ性肝膿瘍が診断されることがあります。実際、多くの症例で消化器症状が認められません。
 Lancet の総説 [表2. が非常に参考になります, PMID 1266007, [17]] では、下痢の出現頻度は14-30%と記載されています。また当院の日本人 HIV 感染者をまとめたアメーバ性肝膿瘍のデータ [PMID 21931875, [15] ]では、下痢 46%、血便 19% の頻度でした。
 想定される病態としては、最初に回盲部周囲で赤痢アメーバの腸管感染が起こり、感染局所で増殖した栄養体が、粘膜下組織から脈管侵襲を起こし、腸肝循環を介して肝臓へ到達し、肝膿瘍を形成します。腸管病変が存在するかどうかを確かめるためには、メトロニダゾールによる治療開始前に下部消化管内視鏡を行う必要がありますが、治療を遅らせてしまうことになるため、そのような研究は存在しません。経験的には、肝膿瘍症例で臨床的にアメーバ性を疑い、メトロニダゾール投与開始した上で、確定診断目的に下部消化管内視鏡検査を行ってみることもあります。記憶する限り、ほぼ全例で治癒経過と思われる下部消化管潰瘍を回盲部に認めましたが、治癒過程の潰瘍が多く、生検での診断率は高くなかったです。

Q8劇症型アメーバ赤痢 (Fulminant Amebiasis, 致死的な重症例) は、どのような症状で見つかりますか

 劇症型アメーバ赤痢は非常に重篤な病態で、以下のような症状が出現します。
・激しい腹痛と圧痛:感染臓器による
・高熱、悪寒、発汗
・急激な体重減少、下痢の持続による脱水
・血圧低下、ショック、意識障害、精神錯乱状態、呼吸困難
・血性下痢:劇症型大腸炎
 Q4 やQ5 で、頻度の高いアメーバ赤痢 (腸炎と肝膿瘍) の臨床像は、比較的緩徐な経過で発症することを指摘しました。しかし、アメーバ赤痢にも急激に病状が悪化し、初療を誤ると致死的となる病型が存在します。それが、劇症型アメーバ赤痢です。

国内報告の重症症例

 劇症型アメーバ赤痢は、無症状のまま進行した赤痢アメーバによる大腸潰瘍が、漿膜側に達し、大腸穿孔・穿孔性腹膜炎を併発する病態であると考えられています。すなわち、大腸穿孔の原因は赤痢アメーバの大腸潰瘍・腹膜の貫通である一方、急激な血圧低下や意識障害・呼吸困難は大腸穿孔に続発する細菌性汎腹膜炎や菌血症により生じます。このように、赤痢アメーバに起因する病態と腸内細菌による病態、2つの病態を理解して、診療にあたらなければなりません。緊急での対応は、腸内細菌による病態に対する治療が主となります。下部消化管穿孔に伴う細菌性腹膜炎や菌血症は、治療の遅れが致死的となります。穿孔した大腸を切除し、腹腔内を洗浄する緊急手術に加えて、血液培養や腹腔内内容物の培養検査を採取するとともに、腸内細菌や嫌気性菌を広くカバーするような抗菌薬 (例: メロペネム) を速やかに開始する必要があります。
 一方、大腸穿孔の原因が赤痢アメーバによる場合、術後にメトロニダゾール等の抗アメーバ薬が投与されなければ、切除部位の縫合不全や他の部位の腸管穿孔を繰り返してしまいます。穿孔部位の切除が行われていれば、縫合不全や他の部位の腸管穿孔まで数日から数週間かかることが多いものの、大腸穿孔の原因が特定されないまま、腸管切除を繰り返し、全結腸切除になる症例や、救命できず、剖検で赤痢アメーバの存在が確認される症例報告は、直近10年でも国内から複数報告されています [参考の Table, 第70回日本感染症学会東日本地方会シンポジウム発表スライドを改変]。切除された標本は、病理検査へ依頼が入るものの、ルーチンで行われる HE 染色では、粘膜下組織内に侵入した赤痢アメーバと炎症細胞 (多核白血球) を区別できません [自施設の HIV 感染者で診断された虫垂炎症例に占める赤痢アメーバ感染の頻度と臨床的特徴, PMID 27847377, [18]]。大腸穿孔の原因が未特定の場合には、患者背景に関わらず、病理検査の担当者に「赤痢アメーバの鑑別が必要であり、PAS染色による観察を追加」するように伝えましょう。前向き研究のデータはありませんが、病理検査で赤痢アメーバが同定された場合、メトロニダゾール等の抗アメーバ薬を追加します。メトロニダゾールの投与期間は、通常の腸管アメーバ症と同様、10-14日間で十分な可能性が高いでしょう。
 以上のように、最重症病型である劇症型アメーバ赤痢の病態は、赤痢アメーバによる腸管穿孔と細菌性腹膜炎・敗血症性ショックの併発です。腹膜炎に伴い、麻痺性イレウスや巨大結腸症などを併発する症例も報告されています。劇症型アメーバ赤痢による重症化と死亡率上昇の危険因子として、若年、妊娠、ステロイド治療、悪性腫瘍、栄養失調、アルコール依存症などがあります [メタアナリシス検討結果, PMID 30046644, [19]]。免疫不全宿主では、腸管穿孔のリスクが高まる可能性があるので、注意が必要です。

Q9無症状の感染者 (無症候性持続感染者) を、スクリーニングする方法はありますか

 無症状でも赤痢アメーバに感染しているかスクリーニングする方法として、糞便PCR検査が有用です。簡便な方法としては、血清抗体検査を行うことが有用だと考えていますが、一般的には実践されていません。現在、糞便PCR検査と血清抗体検査はいずれも国内未承認検査です。
 研究等でよく用いられている方法は糞便PCR検査です。侵襲性アメーバ赤痢の診断に用いられるリボゾーム RNA 領域を標的にした定量 PCR [PMID 29236996, [20] 等] が用いられていることが多いです。さらに、HIV や梅毒など、他の性感染症を併発した症例での赤痢アメーバ感染スクリーニング方法について、検討され、無症候性持続感染者であっても高率に血清抗赤痢アメーバ抗体が陽性であること [PMID 25048374, [21]] や、血清抗赤痢アメーバ抗体陽性者の約40%では無症候性持続感染が確認されること [PMID 35468146, [14]] が、明らかになっています。将来的には、他の性感染症を発症するなどのハイリスク群を対象に、保健所や性感染症クリニックで血清抗赤痢アメーバ抗体による感染スクリーニング検査を行い、糞便PCR検査や下部消化管内視鏡検査で確定診断を行う公衆衛生戦略を提言していきたいと考えています。無症候性持続感染者を早期診断・治療することにより、その後の侵襲性アメーバ赤痢の発症予防になるだけでなく、無症状の感染者を治療することにより、他者への感染拡大を防ぐ公衆衛生対策にもなることを期待しています [IASR Vol. 37 p.248-249: 2016年12月号, https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2351-iasr/related-articles/related-articles-442/6948-442r06.html]。

Q10無症候性持続感染者(シストキャリア)の患者は、どこにも病変がないのでしょうか

 これまでの無症候性持続感染の定義は、自覚症状と糞便中の赤痢アメーバの形態に拠りました。無症候性持続感染は、無症候性シストキャリアと呼ばれ、長らく『赤痢アメーバが腸管に定着しているだけ』という捉え方をされていました。病変やシストが排出される部位がどこであるか、不明点が残されていました。
 実は、無症候性シストキャリアも、主に口側結腸 (回盲部から上行結腸) に限局した大腸潰瘍を認めます。この潰瘍病変で栄養型赤痢アメーバが増殖し、腸管腔内で栄養型からシスト型へのシスト化が起こると考えられています。最近の我々の研究では、無症候性キャリアでも、回盲部から上行結腸に粘膜の破綻を伴う潰瘍病変が認められること、感染局所には栄養型赤痢アメーバを認めることが分かりました [PMID 32564059, [16]]。また、無症候性感染であっても、組織侵襲を反映した血清抗赤痢アメーバ抗体の上昇を高率に認めること [PMID 25048374, [21]]、大腸がん検診で行われる便潜血検査陽性の精査中に赤痢アメーバ感染と診断される例があること [PMID 16282306, [22]] が、報告されています。
 無症候性持続感染の病態が明らかとなり、病変が肛門から遠い部分に限局していることにより自覚症状が欠如してしまうこと、病変から放出された栄養型赤痢アメーバが腸管での環境変化に呼応してシスト化し、感染者の糞便中にシストが排出されることが、分かってきたわけです。余談にはなりますが、有症状の腸炎患者と無症候性感染者で認められる腸管の局所所見・一つ一つの潰瘍局所所見に差異はありません。症状の重さは病変の局在により決定付けられるようです。

Q11無症候性持続感染者 (シストキャリア) が治療しないでいると、どうなるのですか

 具体的なデータは限られていますが、平均1年間程度は、無症候性持続感染が続くことが推定されています。また、最終的な転帰として、無症候性持続感染者の約2割が1年以内に侵襲性アメーバ赤痢を発症し、残りの8割が自然治癒するようです。
 まず、感染の持続期間についてですが、ベトナムの農村住民を対象にした研究が参考になります [PMID 14532214, [7]]。無症状の住民を対象とし、一斉に便検査を行って、糞便中に赤痢アメーバを認めた無症候性感染者を、定期的な便検査でフォローアップしたところ、同じ遺伝子型の赤痢アメーバを排出し続ける期間の平均値 (半分の感染者で、陽性が持続している期間) は、約12か月と推定されました。この研究結果から、無症候性感染者の感染持続期間は約1年と考えられています。また、ほとんどは侵襲性アメーバ赤痢を発症することなく、自然治癒するようです。
 一方、無症候性持続感染者を治療しない場合、将来的に有症状の侵襲性アメーバ赤痢をどの程度の発症率となるかという点についてですが、複数のコホート研究の結果を参考にすると、約1年以内に10-20% の無症候性感染者がアメーバ性腸炎や肝膿瘍、劇症型アメーバ赤痢を発症すると考えられます [参考となるコホート研究, PMID 2891197 [8], PMID 10403338 [9], PMID 24338349 [10] など]。
 無症候性持続感染者は糞便中に感染性のあるシスト型赤痢アメーバを排出し続けます。性的活動性の高いMSMや性風俗に従事する女性 (CSW) 、性風俗を頻繁に利用する方は他者への感染リスクになります。ヒトーヒト感染による他者への感染ハイリスクと考えられる場合は、無症候性持続感染者であっても積極的に治療すべきであると考えます。一方、日常生活による他者への感染リスクは非常に低いようです。1990年代には、アメーバ赤痢発症者の家族や同僚に対する追跡調査が行われていた期間があったようですが、追跡調査中の発症例がいなかったことが東京都から報告されています [東京都感染症情報センター, 東京都微生物検査情報 (月報), 2007年10月掲載記事, http://divdsc.tokyo-eiken.go.jp/epid/y2007/tbkj2810/]。
 加えて、後述する通り、先進国のガイドラインでは、無症候性持続感染者を診断した場合、特別な理由がない限り、治療すべきであると推奨されております。診断した場合、無治療経過観察とせず、パロモマイシン等のシスト駆除薬で治療をしましょう。

病原体を同定するための各種検査について

実臨床で推奨される診断方法
Q12糞便の直接検鏡検査の感度はどの程度ですか

 糞便の直接検鏡検査は糞便を直接または生理食塩水等で希釈したのちに、スライドガラスに塗布し、顕微鏡下で観察し、赤痢アメーバを形態的に同定する検査です。この検査の感度・特異度は検者の技能に大きく依存します。熟練した検査技師が行った検査の感度は、糞便 PCR と比較して、約50%と考えられています [総説, PMID 17630338, [23]]。一般の医療機関では、検査の実施件数が減少し、技術を有する検査技師数が限られていることが、問題視されます。特に、栄養型赤痢アメーバは顕鏡下で運動性のある病原体を同定するため、検体採取から1-2時間以内に検査しなければ感度が落ちてしまいます。外注検査では集卵検査を行うことで、シスト型アメーバの検査感度は保たれるものの、栄養型赤痢アメーバの検査感度が落ちてしまうことが懸念されます。
 以前、我々の施設を含めた全国5カ所の地域の中核となる医療機関で行った検証によると、直接検鏡検査の感度を核酸増幅検査 (qPCR) と比較した場合、下痢便(Bristol scale 6-7)で80%、有形便(Bristol scale 5以下)で50%でした(PMID 32878955, [24])。これらの医療機関の検査技師は、一般医療機関と比較して、検鏡検査の高い技能を有することから、一般医療機関での検査感度はこのデータよりは低下することが予想されます。
 また、特に慢性持続感染・シスト排出者では、検査の感度を向上させるため、同じ患者から異なる糞便を採取し、検査を3回繰り返すことが推奨されています。

Q13赤痢アメーバの腸管感染があれば、糞便PCR検査は必ず陽性になるのでしょうか

 糞便 PCR は、糞便を用いた検査の中で感度・特異度が最も高く、信頼性の高い検査と言えます。
 糞便 PCR の感度は、非常に高いことが予想されるものの、感度 100% とは言い切れません。当院で行った検証 (PMID 32564059, [16]) では、大腸内視鏡検査の病変部位から得られた腸液 PCR と比較した場合、糞便PCRの感度は95.3%でした。
 余談にはなりますが、糞便 PCR 検査は国内や多くの国で未承認の検査であり、各々の施設ごとに異なったプロトコル (核酸抽出の方法、プライマー・プローブの組み合わせなど) が用いられています。ちなみに、プライマーの標的部位は、18S rRNA領域を標的にすることが多いですが、標的は施設により若干異なります。商業ベースの検査では、一部の外注検査機関 (SRL 株式会社) で実施しているものの、診断用試薬はPMDA からの認可を受けていない検査です。

Q14肝膿瘍症例では糞便PCR検査は有用でしょうか

 腸炎症状を合併しない肝膿瘍症例や無症候性持続感染例での糞便PCRの正確な感度・特異度は不明です。
 アメーバ性肝膿瘍の症例では、回盲部の潰瘍から赤痢アメーバが脈管侵襲する病態が想定されるため、糞便 PCR 検査で陽性になる可能性は高く、経験上、腸炎症状を有しない肝膿瘍患者の糞便赤痢アメーバ PCR 検査が陽性であったためにアメーバ性肝膿瘍の診断に至ったこともありますが、正確な感度・特異度は不明です。欧米の総説 [N Engl J Med:PMID 12700377, [6] Lancet:PMID 1266007, [17]] でも、肝膿瘍の診断に対する糞便PCRの有用性に関するコメントはなく、肝膿瘍の確定診断には膿瘍穿刺液の PCR や血清抗体検査が推奨されています。ただし、2018年以降、本邦では血清抗赤痢アメーバ抗体検査が保険診療で行うことが出来ず、アメーバ性肝膿瘍の確定診断は極めて困難な状況が続き、未診断例の増加による見かけ上の報告数減少が続いており、感染症研究所からも現状を憂慮する報告が出ています[2020年6月4日, 感染症研究所ホームページ記事, https://www.niid.go.jp/niid/ja/entamoeba-histolytica-m/entamoeba-histolytica-idwrs/9653-amebiasis-200604.html]。

Q15.慢性下痢症の患者で、糞便直接検鏡検査が陰性でした。腸管アメーバ症は否定的であると考えて良いでしょうか。国内では、PCR検査が未認可ですが、他に追加すべき検査はありますか

 慢性下痢症の原因が未特定であり、赤痢アメーバ症を疑う場合は、下部消化管内視鏡検査の実施をお勧めします。
 Q1 の回答通り、糞便直接検鏡検査の感度は不十分で、実施した検査者の技能に大きく依存するため、糞便直接検鏡検査だけで赤痢アメーバ症の可能性を否定することはできません。海外では、赤痢アメーバ症の診断や除外には糞便 PCR検査の実施が推奨されていますが、国内では未承認です。
 国内での臨床プラクティスとしては、下部消化管内視鏡検査が勧められます。赤痢アメーバは、栄養型の表面にあるレクチン分子が大腸粘膜表面のムチンに結合することで、ヒトへの感染が成立すると考えられ、大腸粘膜にのみ感染可能と考えられています。また、無症候性持続感染や軽症腸炎の患者であっても、大腸粘膜には可視的な潰瘍性病変を認め、その部位には栄養型赤痢アメーバが存在し、同部位での分裂・増殖を経て、腸管内に放出された後に、栄養型からシスト型への形態変化が起こると考えられています。また、下部消化管内視鏡検査は全結腸をくまなく観察することができ、アメーバ赤痢以外の下痢の原因についても精査が可能です。
 大腸粘膜にアメーバ赤痢を疑う潰瘍性病変を認めた場合には、生検した標本を病理検査に提出するとともに、病変部位から採取された腸液を凍結保存するなどして、PCR検査の依頼が可能にしておくと良いでしょう。下部消化管内視鏡検査下での生検病理のアメーバ赤痢に対する感度は50%前後と考えられています。病理で診断されない場合には、地方衛生研究所や感染症研究所などの研究機関へ、赤痢アメーバ PCR の検査依頼することを検討して下さい。また、保険適応外ではありますが、株式会社 SRLでも、糞便検体に対する PCR検査を受け付けています(2023年7月現在, 15,000円前後)。

Q16血清抗赤痢アメーバ抗体検査は実施可能でしょうか

 商品化された試薬 (ELISA法) は海外では販売されておりますが、2023年7月現在、診断目的に血清抗赤痢アメーバ抗体検査を受け付けている検査機関はありません。
 2017年以前は、間接蛍光抗体法試薬による血清抗体検査が保険診療で実施可能でした。しかし、2018年以降は間接蛍光抗体法試薬の製造が全面的に中止となり、現在の国内保険診療で実施することは不可能です。
 経緯をご説明します。間接蛍光抗体法試薬は、日本と韓国以外では使用実績がほとんどなく、海外ではELISA試薬により血清抗赤痢アメーバ抗体検査が実施されています。そのため、製造元のビオメリュー社が間接蛍光抗体法試薬の製造を中止しました。大多数の国ではELISA試薬により検査が実施されていたため、影響を受けませんでしたが、日本でELISA試薬による血清抗赤痢アメーバ抗体検査は薬事承認を受けていないため、診断を目的とした同検査の実施は不可能な状態が続いています。
 当施設では、保存血清を用いた検証で、ELISAと間接蛍光抗体法試薬による血清抗体検査結果の相関性を確認しています [PMID 33483275, [25]]。また、2023年3月29日には、ELISA法による血清抗赤痢アメーバ抗体検査の薬事承認におよび保険収載に関しての要望書が、日本エイズ学会・寄生虫学会・熱帯医学会・感染症学会の4学会連名で提出されました。今後、ELISA試薬が承認され、保険診療での血清抗体検査実施が可能となることが期待されます。

Q172021年7月に保険収載された、糞便抗原検査 (赤痢アメーバ QUIK CHEK) について教えて下さい。

利点と欠点を解説します。

利点:ベッドサイドにて、特殊な機器を必要とせず実施可能

 この検査キットはイムノクロマト法により、20-30分程度で、糞便中に赤痢アメーバが存在しているか否かを判定できます。キット内に必要な試薬が梱包されているため特別な機器は必要なく、ベッドサイドで実施可能です。

欠点:強い症状がない患者では、感度が著しく低くなる

 この試薬が標的としている抗原は、栄養型赤痢アメーバ表面のレクチンです。レクチンは、シスト型赤痢アメーバには発現しておらず、無症候性持続感染者や軽症アメーバ性腸炎では偽陰性の可能性が高まりま。そのため、粘血便や渋り腹といった典型的な症状を呈する患者の早期診断には有用ですが、慢性下痢症の患者での赤痢アメーバ症除外には不向きです。糞便PCR検査との比較では、固形便 (Bristol Scale 5下) での感度 27.8%, 下痢便 (Bristol Scale 6以上) での感度 60.0% です。一方、特異度が非常に高く、他の腸管原虫との交差反応もないようです [国内他施設共同研究結果 PMID 32878955, [24]]。
 以上、陽性であった場合には赤痢アメーバと確定診断可能ですが、本検査が陰性の場合でも感染を否定することはできません。アメーバ赤痢を強く疑うか、アメーバ赤痢の除外が必要な場合には、下部消化管内鏡検査の実施を積極的に検討して下さい。

赤痢アメーバ症の治療

Q18結腸切除例でも、メトロニダゾールを静注薬から内服薬へ変更することは可能でしょうか。

 薬理学的に、メトロニダゾールは上部小腸で吸収されますので、経口摂取が再開されているような場合、通常問題ありません。もし、内服が出来ない状況では静注薬の投与を継続しますが、経口摂取可能になれば、内服薬への切り替えが推奨されています。

Q19メトロニダゾールで治療抵抗性の場合、次の一手としてチニダゾールは選択肢となり得るでしょうか。

 チニダゾールは、メトロニダゾールの代替薬として海外では推奨されている薬剤です。メトロニダゾールよりも副作用の頻度が低く、治療効果も優れているということが教科書的に知られています。ただし、本邦では保険診療内での投与は、メトロニダゾールおよびシスト駆除薬のパロモマイシンに限られており、チニダゾールは適応外使用になります。
 メタアナリシスの結果(PMID 30624763, [26])でも、チニダゾールの有効性が高いことが示唆されていますが、解析に用いられているエビデンスは 1970 年代以前が多いです。代表的な話としては、メトロニダゾールとチニダゾールを3日間投与した場合、チニダゾールは治療効果が高いことが確認されています。難治例では適応外使用となりますが、試してみる価値はあると思われます。この場合、チニダゾールはメトロニダゾールの代替薬です。チニダゾール投与後は、パロモマイシン等のシスト駆除薬を投与して下さい。

Q20重症の場合、メトロニダゾールの投与期間の延長は考慮されますか

 アメーバ赤痢の治療において、軽症・重症を問わず、メトロニダゾールの投与期間は10-14 日間とされています。これ以上の治療期間の延長により、予後が改善するというエビデンスはありません。劇症型アメーバ赤痢のような重症例 (例えば、細菌性腹膜炎を合併し・腸管切除症したような例) であっても、10-14日間の治療で終了しており、より長期間のメトロニダゾール投与を必要とした症例は経験していません。一方、1か月間以上の長期処方を行うと、末梢神経障害などメトロニダゾールの用量依存性の有害事象の頻度が増える可能性があります。
 ただし、赤痢アメーバの感染が判明している症例であっても、メトロニダゾールの初期治療に反応が悪い場合には、合併症による細菌感染が難治の場合が考えられます。腸管穿孔が残存していないか、初期抗菌療法に対する菌交代が起こり、3次性腹膜炎のような病態が考えられないか、腸管穿孔・穿孔性腹膜炎に起因する病態での難治化を想定した追加検査・治療が推奨されます。

Q21アメーバ性肝膿瘍に対するメトロニダゾール投与終了後、解熱は得られましたが、膿瘍が残存しています。治療の変更または延長は必要でしょうか

 発熱などの臨床所見の改善があれば、ガイドライン等で推奨されているメトロニダゾールによる10-14日間の治療で十分とされており、通常は治療の延長は不要です。
 しかし、治療開始後も膿瘍が大きくなる場合、または発熱等の臨床症状が悪化する場合は、細菌性肝膿瘍との鑑別が必要と考えられます。穿刺や生検検査を行い、細菌性肝膿瘍や腫瘍性病変に関する精査を行うべきです。今のところ、臨床的・微生物学的にメトロニダゾール耐性が確定された症例は報告されておらず、経験もありません。メトロニダゾールの投与期間は通常の治療期間である10-14日間で十分効果が得られるとされています。

Q22アメーバ性大腸炎の治療期間は短縮可能でしょうか

 副作用等がなければ、メトロニダゾールの10日間治療を行います。ただし、副作用等で5-7日間程度に短縮してメトロニダゾールによる治療を終了した場合も、早期の再燃や治療失敗はほとんど経験しないため、短縮が可能であることが示唆されますが、まだ十分な検証は行われていません。特別な理由がない限り、治療期間を完遂することを推奨します。万が一、副作用や患者の服薬アドヒアランスなどの問題で治療期間が短くなってしまう場合には、症状の再燃に注意し、慎重な経過観察が必要です。保険診療で可能な代替薬はありませんが、Q18 にある通り、チニダゾールの保険適応外使用も選択肢として検討可能です。

Q23メトロニダゾールの投与により、自覚症状が消失していれば、治療は終了して良いでしょうか

 メトロニダゾール単剤治療は推奨されておりません。特別な理由がない限り、メトロニダゾール投与後、パロモマイシン等のシスト駆除薬の投与を行い、治療を完遂します。
 海外の教科書、国内の治療手引き (寄生虫症薬物治療の手引き, https://jsparasitol.org/wp-content/uploads/2022/01/tebiki_2020ver10.2.pdf)では、アメーバ性腸炎・無症候性赤痢アメーバ感染のいずれにおいても、メトロニダゾール単剤の治療は推奨されておらず、パロモマイシンによる後療法が推奨されています。パロモマイシンでの後療法は保険適応になっており、特別な理由が無ければ、投与すべきです。具体的な治療については、『赤痢アメーバ症の疾患の概略』をご参照ください。
 一方、2012年以前は、シスト駆除のための後療法で用いるパロモマイシンは認可されておらず、熱帯病治療薬研究班が、一括で輸入購入したものを申請し、使用許可を得るシステムでした。しかし、アメーバ赤痢の症例数に対し、十分な量を確保することが難しく、赤痢アメーバ症の全症例でのパロモマイシン投与は不可能でした。このため、特別な理由がない限り、メトロニダゾール単剤によるアメーバ赤痢の治療が行われてきました。現在でも、パロモマイシンが保険診療で処方可能であることが十分に周知されていないため、メトロニダゾールのみで治療を終了している症例が散見されますが、先進国での赤痢アメーバ症治療のコンセンサスはメトロニダゾール単剤治療ではなく、メトロニダゾール投与後にパロモマイシンを用いることが推奨されています。

Q24残存シストは再燃して、再度侵襲性赤痢アメーバ感染症を起こすのでしょうか

 具体的なエビデンスはありません。残存シストの再燃と思われる侵襲性赤痢アメーバの再発を経験したことはありますが、コホート研究の結果からは、シストの残存よりも、再感染のリスク行為の影響が再発に関与しているようです。メトロニダゾール投与後のパロモマイシンによるシスト駆除も重要ですが、再感染を防ぐ生活指導も並行して行うべきです。
 自験例ですが、メトロニダゾール投与後にも残存した赤痢アメーバの再燃によるアメーバ赤痢 (アメーバ性腸炎) の症例を経験しています [PMID 31595870, [12]]。この症例では再発前後で、赤痢アメーバのgenotypeが同一であることを確認しています。再発時にはメトロニダゾール投与後、パロモマイシンによるシスト駆除を完遂し、下部消化管内視鏡検査で治癒を確認しました。以後、再発を認めておりません。
 しかし、パロモマイシンを投与すれば、再発を完全に防げるわけではありません。当然ながら、リスク行為を繰り返せば再感染による再発を経験します。パロモマイシンが、事承認を受ける前 (2012年以前) は、赤痢アメーバ感染症の発症者全員に対してパロモマイシン投与を行うことが出来ませんでしたが、再発の頻度はそれほど高くない印象でした。2012年以前のデータを用いた過去の研究で、パロモマイシン投与のあった症例と無かった症例における侵襲性アメーバ赤痢の再発率を比較検討したことがあります。結果は、パロモマイシン投与有り群、無し群、ともに再発率は約5年間に15%程度であり、統計学的な差は認められませんでした [PMID 21931875, [15]]。回帰解析により、再発率に影響を与える因子を解析したところ、C型肝炎キャリアや初回アメーバ赤痢治療後に新たに梅毒を発症した症例で再発率が高くなる傾向が示されました。すなわち、初回アメーバ赤痢治療後においてsexually activeであること(=再感染のリスク行為を重ねていること)が、再発リスクに強い影響を与える一方、パロモマイシン投与の有無は、再発率に統計学的に有意な影響を与えないという結果だったわけです。
 結論として、稀にではありますが、起こり得る残存シストの再燃による再発はあり得ます。そのために、パロモマイシンによるシスト駆除は必要でしょう。しかし、パロモマイシンの処方と同時に、再感染に繋がるリスク行為を回避する方法について、患者と話し合わなければ再発リスクを低下させることはできません。海外渡航後であれば途上国では加熱された水や食物を摂取すること、性感染症であれば oral-anal sexual contactや複数人による男性同性間性的接触などを避けるように指導しましょう。感染リスクの詳細は、Q1-3 に掲載していますので、参照してください。

Q25シストの残存による他者への感染リスクは高いのでしょうか?家族などの同居者に感染が広がることはあるのでしょうか?

 男性同性間性的接触や、男性女性を問わないoral-anal sexual contactのような行為による濃厚接触者への感染の拡大を防ぐ可能性はありますが、効果は限定的です。また、アメーバ赤痢発症者のみを対象にしたパロモマイシン投与は、公衆衛生学の観点からも効果が低いと考えられます。
 まず、赤痢アメーバに感染した方のおよそ9割は無症候性持続感染となり、有症状のアメーバ赤痢発症者は全体の感染者数の1割程度だと考えられます。そのため、アメーバ赤痢発症者のみを対象に、パロモマイシンでシスト駆除したとしても、その効果は限られます。アメーバ赤痢の年間報告数は年間1000件程度ですが、無症候性感染は水面下に広がっていることが考えられます。自験例ではありますが、東京都健康安全研究センターとの共同研究で示した2017年の東京都のHIV無料検査場の血清検体での血清抗アメーバ抗体陽性率(アメーバ赤痢の血清陽性率)=2.64%で、RPRの陽性率とほぼ同等(PMID 32102805, [13])でした。すなわち、梅毒並みにアメーバ赤痢が性感染症として定着していることを示唆しています。無症候性持続感染者への血清抗体検査などを用いた積極的なスクリーニングと感染者へのシスト駆除を行わない限り、公衆衛生学的な効果は期待できないレベルまで、国内での性感染症によるアメーバ赤痢の流行は進んでいると考えられます。
 また、アメーバ赤痢は、糞口感染による感染伝播を起こし、生活を共にするだけで、性的接触のない家族内感染は非常に稀なようです。東京都の保健所では、生活を共にする人の接触者調査を行っていたようですが、職場の同僚や家族などへの感染は確認されなかったという記事 [東京都感染症情報センター, 東京都微生物検査情報 (月報), 2007年10月掲載記事, http://divdsc.tokyo-eiken.go.jp/epid/y2007/tbkj2810/] を出しています。そのため、同居家族など、周囲への感染拡大を防ぐ目的のための、早急なパロモマイシン投与は、不要です。パロモマイシン投与に先立ち、最も重要なことは、当該患者での感染経路を特定すること、どのような行為がアメーバ赤痢感染リスクになるかについいて、十分な知識供与を行うこと、が重要です。ちなみに、イギリスの公衆衛生上のガイドライン [Interim Public Health Operation for Amoebiasis, https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/777437/divnterim_Public_Health_Operational_Guidelines_for_Amoebiasis.pdf] では、”感染リスクのある接触者” には、感染者と一緒に流行地域に旅行した者 (旅行先で同じような食生活をしている可能性が高い)、感染者の感染時期以後に性交渉を持った者 (性行為による直接感染のリスクがある) に加えて、感染者の同居家族が含まれていますが、現時点ではアメーバ赤痢発症者の同居家族や職場・学校の同僚に対する接触者検診や発症者の隔離などは、本邦では推奨されていません。十分なエビデンスがなく、感染対策については、国により若干の違いが生じているようです。

Q26パロモマイシンを投与する場合、メトロニダゾール投与後に何日程度空けるべきでしょうか?また、メトロニダゾール投与からしばらく間隔(場合によっては数ヶ月)が空いてしまっても問題ないでしょうか

 パロモマイシンは、共通する消化器症状(通常軽度)があり、非常に稀ながらアレルギーなどもありますので、メトロニダゾールの同時投与は推奨されていません。メトロニダゾール投与により副作用がない、または、投与終了後に副作用が改善した、などの状況であればパロモマイシンの投与を開始することができると考えます。経験的には、メトロニダゾール治療が終了から1週間から4週間空けて、パロモマイシンの投与を開始することが多いです。メトロニダゾール治療後、即時にパロモマイシン等のシスト駆除を行わなかった場合でも、数か月以内の早期再発はないようです。当施設で行った検討でも、最も早い再発例は半年以上が経過してからの再発でした。特段の理由がなければ、メトロニダゾールの投与終了直後から2-3ヶ月以内のパロモマイシン投与を推奨します。メトロニダゾール投与後の早期再発がない理由は、腸管の抗レクチンIgA 抗体の分泌が一定期間続くことで、栄養型赤痢アメーバの活動を抑制していることが推定されています。感染後の IgA 産生量とアメーバ赤痢の再発に関する論文 [PMID 11372032, [27]] や母乳に含まれる抗レクチンIgA 抗体量が新生児の赤痢アメーバ感染抑制に働く影響に関する論文 [PMID 23243179, [28]] などが、過去には報告されています。ちなみに、同論文によると、感染後の腸管内抗レクチン IgA 抗体は1年程度で急速に低下するようです。1年以内の再発は少ないですが、1年を過ぎると再感染による再発が増える理由も腸管の IgA 抗体量で説明が可能かもしれません。

Q27パロモマイシンの安全性や有効性、注意すべき副作用などのデータはありますか

 国内実臨床でのパロモマイシン投与についての成績が日本化学療法学会からの市販後調査に関する論文に記載されております。副作用としては、1-2割程度で下痢や悪心などの消化器症状が出現すると報告されています。一方、パロモマイシンはほとんど吸収されず、薬剤のほとんどは腸管内に残るため、消化管症状以外の臓器への影響は極めて低いとされています。[https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06901/069010013.pdf]

Q28再感染を防ぐためにどのような指導が必要ですか

 パロモマイシンによるシスト駆除後も、感染リスク行為を避けなければ、再感染による再発の危険があります。赤痢アメーバ症発症者へ再感染リスクに関する注意喚起を徹底し、患者にはリスク行為を繰り返す限り、再感染する可能性があるということを理解いただく必要があります。特に、男性同性間性的接触は高リスクですが、それ以外にもリスク行為があります。性風俗利用や性的パートナーでもoral-anal sexual contact(おしりを直接舐めあう行為)がリスクの高い行為であり、アナルセックスはアメーバ感染の直接のリスクではないというデータもあります(PMID 21212204, [5])。
 糞口感染による感染ですので、具体的なリスク行為は、以下の3点となります。
・男性同士での性交渉(特に多人数での性交渉)
・女性性風俗での、oral-anal sexual contact(お尻を直接舐める・舐められるのサービス)
・海外渡航・発展途上国での加熱処理されていない水・食物の摂取や河川での遊泳
感染リスクに関する詳しい解説は、Q1-3 もご参照ください。

Q29小児のアメーバ性大腸炎に対しての、パロモマイシン併用の必要性とパロモマイシン投与のタイミングを教えてください。

 急性期の治癒率に、メトロニダゾールとパロモマイシンの併用療法が有効というエビデンスはなく、消化器症状などの副作用が重複するため、同時投与は推奨されません。また、小児・成人に限らず、パロモマイシンはシスト駆除薬であり、メトロニダゾール投与終了後に病状が落ち着いた時点での開始が勧められます。メトロニダゾール終了後から3か月以内を目途に投与することが望ましいです。パロモマイシンは、腸管からほとんど吸収されず、古くから小児でも安全に利用されています。消化管に残ったシストを直接作用して除菌するため、決められた小児での用量に関してはっきりとしたデータはありませんが、古い報告から推定すると、25-30mg/kg を1日量とし、1日量を分3で投与するのが、一般的なようです。ただし、高用量では消化器症状の頻度が増加するため、注意してください。

個人的に興味深いと感じた論文の紹介

・母乳中の抗レクチン IgA 抗体量と感染予防効果 (PMID 23243179, [28])

 本研究はバングラデシュ・コホートのデータです。スラム街に住む母親から生まれた新生児に対し、定期的な糞便検査 (おむつからの採取) と糞便 PCR 検査 (赤痢アメーバ・クリプトスポリジウムを含む) を行い、PCR陽性になるまでの期間を Kaplan-Meier 曲線で評価しています。母乳中の抗レクチン IgA 抗体量が高い群と低い群の2群で比較したところ、抗レクチンIgA 抗体高値群で赤痢アメーバ PCR 陽性になるまでの期間が延長したという結果が得られました。
 赤痢アメーバやクリプトスポリジウムなどの腸管原虫の感染症では、感染ハイリスク群での検証を行うと、再感染と残存シストの再燃の見分けが付かないことから、成人で感染時に分泌される IgA と再感染までの時期を見て、IgA の感染予防効果を評価することは非常に難しいです。新生児を対象に、初回の感染症が起こるまでの期間を評価項目とし、母乳による受動的な IgA を定量的に測定し、2群に分けてその効果をみたことにより、IgA による予防効果が明確に示されています。本研究のアプローチは非常にユニークで、着眼点が素晴らしいですね。

・Oral anal sex がリスクであることを、統計学的に示した論文 (PMID 21212204, [5] )

 医師の学会や勉強会などで、赤痢アメーバの話をすると、「男性同性間性的接触者 (MSM)で流行する疾患」というイメージが強いようで、「アナルセックスで、感染伝播するんでしょ?」と言われます。MSM で流行する疾患というのは疫学的に正しく、日本だけでなく台湾・韓国・中国などの東アジア、アメリカ合衆国、ヨーロッパの一部の国々、オーストラリアなどで明らかになっています。しかし、アナルセックスで感染伝播するというのはどうでしょうか。赤痢アメーバを含む腸管原虫は、”糞口感染” により感染伝播します。性器と肛門が接することにより、赤痢アメーバは理論的に考えて感染伝播しません。アナルセックスで感染伝播するというのは誤っています。このことを、本研究では明確に示しています。研究をデザインし、データ解析を主に担当したのは検査相談員とのことです。
 台湾の自発的性感染症検査場 (VCT, 日本でいうところの保健所のHIV検査場) で行われた研究で、血清抗赤痢アメーバ抗体検査が陽性であった被験者を赤痢アメーバ感染リスクありとしています。研究者参加者に、性嗜好を質問項目に含むアンケート調査を実施し、どのような性嗜好・性行為が赤痢アメーバ感染リスクと関連するかどうか、回帰解析により評価したところ、年齢が高いこと、学歴が低いこと、MSM、oral-anal sex (肛門を直接舐める行為)が、赤痢アメーバ感染の有意なリスク因子でした。一方、性別、セックスパートナーの数、HIV感染症、アナルセックス、oral-genital sex (性器を口で舐める行為)は、赤痢アメーバの有意なリスク因子ではありませんでした。この知見により、男女関わらず、糞口感染のリスクとなり得るような性行為 (oral anal sex) がリスクとなることが分かりました。
 従来、MSMかどうかのみ問診を絞っていた消化器内科の先生に、この話をしたところ、性風俗の勤務歴や利用歴、性風俗で肛門を舐めあうようなサービスをしていないかどうかの問診を追加したことで、感染リスクを同定することが出来るようになったと伺ったことがあります。感染経路の特定は、患者に感染リスク行為を具体的に説明し、感染リスクを避ける行動を示し、再感染予防行動を啓発するために重要です。本論文は感染経路についての正しい知識を示し、本 Q&A にも何度か引用しました。

当施設が中心となって、報告した臨床病態に関する研究の紹介

 私たちの施設では、『無症状かつアメーバ赤痢の治療歴がないが、血清抗赤痢アメーバ抗体が陽性』である場合の臨床的意義について検証した研究を発表しています(参照:J Infect Dis, 2014, PMID 24338349; Am J Trop Med Hyg, 2014, PMID 25048374; PLoS Negl Trop Dis, 2022, PMID 35468146)。この研究では、2017年以前に認可されていた血清抗体検査試薬 (間接蛍光抗体法) を用いたコホート解析から重要な治験が得られました。具体的には、血清抗赤痢アメーバ抗体 x400 以上の被験者は、1年以内に約20%で、侵襲性アメーバ赤痢を発症することが明らかになりました。その後、無症状かつ血清抗赤痢アメーバ抗体陽性の場合には約40%割で慢性キャリアであることがわかりました。つまり、『無症状かつアメーバ赤痢の治療歴がないが、血清抗赤痢アメーバ抗体陽性』の場合、約4割は、無症候性持続赤痢アメーバ感染が起こっていること、治療せずに放置すると約2割が1年以内に有症状の侵襲性アメーバ赤痢を発症することが、我々が行ってきた研究により明らかになりました。
 この知見は、近い将来血清抗赤痢アメーバ抗体検査が再認可された際、特定のハイリスク群 (MSM, CSW, 梅毒や HIV 感染と診断された患者など) に対する血清抗赤痢アメーバ抗体検査による感染スクリーニングを行い、陽性者に対して、下部消化管内視鏡検査 (保険診療) や糞便赤痢アメーバPCR検査 (保険外診療) を通して、無症候性キャリアの早期発見・早期治療が可能となるでしょう。

 さらに、無症候性持続赤痢アメーバ感染でも、大腸には肉眼的に確認できる潰瘍病変が存在することが消化器症状を規定するのは、病変の局在であることを、証明した研究(参照:Clin Infect Dis, 2021, PMID 32564059)で明らかにされました。従来、無症候性シストキャリアと呼ばれていたこの状態は、完全に無害な病気で、体内には病変はおろか、栄養型赤痢アメーバは存在しないと考えられていました。一方、赤痢アメーバの産生には、栄養型赤痢アメーバの分裂による増殖が不可欠であること、栄養型赤痢アメーバは大腸粘膜以外には接触できないことから、必ず大腸に病変が存在すると考え、解析を行いました。その結果、糞便中にシストを排出する無症候性シストキャリアであっても、下部消化管内視鏡検査で口側結腸 (主に回盲部) に可視的な潰瘍性病変を認め、潰瘍局所には栄養型赤痢アメーバが存在することを証明しました。また、無症候性持続感染者と有症状のアメーバ性腸炎患者との比較では、下部消化管内視鏡検査所見で潰瘍局所所見には有意な差を認めない一方、病変の位置に違いがみられました。無症候性持続感染者では病変が口側結腸に限局しているのに対し、腸炎患者では病変が全結腸に拡大し、肛門側結腸 (特にS上結腸や直腸) に及ぶと、症状が強く出やすいことが分かりました。

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